西村佳子「果物を建てる」

Nishimura Keiko
アートラボあいち大津橋
August 6 - August 28, 2016



愛知藝術大学大学院で絵画を学び、現在京都を拠点に活動している画家・西村佳子の個展。近年はアトリエを手放し家族と暮らす自宅の一室へと制作場所を移動、また自然の中で作品を発表するなど「絵」にまつわる環境を積極的に変化させ実験を重ねている。アクリル絵具、鉛筆やペン、グリッターのような身近な筆記具で描き、さらに日用品や生活で排出されるものと絵画で空間を構成したインスタレーションとして発表している。本展では、絵画、木材、スチロールブロック、スプレイ缶、トイレットペーパーの芯やプラスチックのボールなどが、窓、消化器、業務用の空調機、壁や床に残された汚れなど展示室に予め付与された要素に呼応しながら配置されている。そのしなやかであか抜けた空間の使いこなしには唸らされるが、所々に刻み込まれている細密だが力強い筆跡で描き出された文様からは念力のようなエネルギーが沸き上がり、そして、やはり何よりも、アクリルで描かれたタブローは、土のように粘り気のある質感に覆われ、幻想的なモチーフと色彩の中に人間の原初的な魂が宿っているかのように圧倒的な光彩を放っている。「果物を建てる」――この不可解な言葉の組み合わせは、自然と対峙したときに研ぎ澄まされる人間の感性を示唆するかのようだ。人間は、過酷な自然の中に生き延びようと、最大限の想像力と知恵でもって、身の回りの素材を分解し組み立て、食物を確保するための道具をつくり、そして文明を構築してきた。西村は自然と寄り添い暮らす多様な山岳民族の生活文化に深い関心を寄せ自身の足で訪れている。そこで得た見聞が翻訳され日本の現代社会への省察として西村の作品世界に侵入している様が感じられる展覧会だ。